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素敵な夏とリンちゃんの企画に提出したものです。10月になったのでうpです。
夏もリンも好きな仁和が参加しないわけがない!っていう。
夏もリンも好きな仁和が参加しないわけがない!っていう。
階段を上ってくる音がしたかと思うと、ごんごん、と多少乱暴なノックの音が響いた。そしてあたしの返事も待たないうちにドアが開き「リンー入るぞー」という声が、部屋に響いた。
「もう入ってるじゃん……」
あたしはフローリングにうつ伏せに転がったまま呻く。視線は窓に向けられたままだったが、ノックの音を聞いた時点で誰が来たかなんて分かりきっていたので振り向くことはしない。
「ノックするのは殊勝な心構えだと思うけどね、返事する前に開けたら意味無いでしょ……」
「ていうかこの部屋蒸し暑いな。クーラーくらいつけろよ」
「聞けよ……」
相変わらずのマイペースを貫く幼馴染にうんざりとしながらも、あたしはごろりと体を反転させた。レンはお盆を持ったままあたしを見下ろしていて、ばちりと目が合うとふいと視線を逸らされた。
「なにぃー? なんの用?」
「スイカ。たくさんもらったからおすそ分けに来たんだよ。そしたらおばさんからリンの部屋についでに持って行くようお願いされたから、持って来てやったの」
「相変わらずうちのママは人使い……いや、レン使いが荒いなあ」
「ホントにな……で、スイカ食う?」
「食べる!」
あたしは元気に返事をして勢いよく体を起こした。我ながら現金な態度だとは思ったが、食欲には勝てない。レンは苦笑してあたしの前に腰を下ろした。
お盆の上にはスイカが2つ、のせられている。あたしの分と、レンの分だ。あたしは片方を手に取って早速口にする。暑さで脳みそまでとろけそうだった体に、スイカのひんやりとしたみずみずしい甘さが染み渡る。美味しいーとあたしは声をあげてもう一口齧る。
ふと視線を上げるとレンはスイカに手を付けずにあたしを眺めていた。ひどく真面目な色をした青い双眸とぱちりと視線が交わった瞬間、心臓が小さく跳ねた。
……え。
なんだろう。
これ。
あたしは驚いて自分の体を見下ろす。しかし、心臓はそれきりまたいつも通り穏やかに鼓動を打ち始め、あたしはわけが分からないままじっと自分の胸の辺りを見つめた。
「……リン、どうした?」
「あ、ううん! 何でもない。それよりレンは食べないの? それレンの分だよ」
「や、オレはいいよ。うちにもいっぱいあるからさ」
「ふーん……じゃあ、これも食べていい?」
こくりとレンが頷く。やったあ、とあたしは歓声をあげた。ありがとうレン、とあたしは笑ったが、レンは驚いたように目を瞠ったかと思うと、またふいっと視線を逸らしてしまった。
あたしは首を傾げる。何だか少し、いつもと様子が違う。どうしたの、とあたしが口を開きかけたところで、レンの視線がベランダに止まっているのに気付いた。つられてあたしもベランダを見る。鮮やかな白い蕾が闇の中に浮かび上がっているのがここから見えた。
「なに、あれ?」
「ああ、あれ? あれはねーヨルガオです」
「ヨルガオ? 育ててんの?」
「そうだよ。見る?」
あたしは食べかけのスイカを置いて立ち上がり、ベランダのドアを開けた。そこには小学生の時にもらったプランターが置いてあり、今はそこで蔦をからませたヨルガオがいくつか蕾をつけている。
「まだ咲いてないんだけどね。ほら、蕾の色が白色なんだよ。綺麗でしょ」
プランターの前にしゃがんでレンを振り返る。レンはあたしの背中越しにヨルガオを覗き込んで、へえ、と呟いた。
「ホントだ。初めて見た……ってか、なんでいきなりヨルガオ?」
「夏休みの自由研究だよ。ヨルガオ観察日記」
そう答えると、レンはしばし唖然とした表情であたしを見つめ、そして突然笑い出した。
「えっ、なに? あたしなにか変なこと言った?」
「だってお前……っ、中学生にもなってそれはねーだろ! そもそもそれって自由研究なのか?」
「研究だよっ。ちゃんと毎日日記もつけてるし……! あーもーっ、笑うなばか!」
しかしレンはお腹を抱えて笑い続けている。人が真剣にやっているというのに、そんなに笑わなくてもいいじゃないか! スイカを持ってきてくれたレンへの感謝の気持ちもすっかり消え失せて、あたしはぷいっと背中を向けた。
「いやいや、まあリンが真面目に宿題やってるだけでも良しとしよう」
「何よ偉そうに。今頃フォローしても遅い。そもそもフォローになってない」
「だっていつもは新学期直前に泣きながら宿題こなしてるじゃん。あのリンが7月の時点で課題を始めてるなんて凄い進歩だろ」
偉い偉い、とレンは母親みたいにあたしの頭をわしゃわしゃと撫でた。するとまた、心臓がひとつ大きく鼓動を打つ。
何だか変だ。さっきのレンも変だったけど、今日のあたしも体の調子が少しおかしい。
そしてまた、心臓の鼓動が治まるのを待ってからあたしは唇を尖らせて「だって」と呟く。
「中学生最後の夏休みだし、いっぱい遊びたいんだもん。だから今のうちにやっておくの」
夏休みが終われば本格的に受験勉強に入る。レンはあたしより頭が良いから、高校は別々かもしれない。だから、レンとこうして一緒に過ごせるのもこの夏が最後かもしれなかった。
ほんの少し、沈黙が落ちた。虫の鳴き声が遠くから聞こえた。
「……そっか」
「うん」
「他には宿題、何が残ってんの?」
「えっと……あとは数学の問題集とー、英語の和訳と、あと……」
レンがあたしの隣にしゃがんで、ヨルガオを見つめた。その横顔を見て、あたしの胸が、またどきどきと高鳴る。
なんでだろう。あたしの心臓は一体どうしたんだろう。
あたしは答えを探すようにヨルガオに手を伸ばし、そっと蕾に触れた。柔らかい蕾の輪郭をそっと辿る。その時、嗅いだことの無い甘い匂いがあたしの鼻孔をふわりとくすぐった。
なんだろう、この香り。
不思議に思いながらあたしは蕾から手を離そうとして、
「リン」
突然レンの手が蕾に触れていたあたしの指をそっと掴んだ。
どきん! 心臓がひときわ大きく鼓動を打つ。レンの手は、驚くほど熱い。
「あのさ」
すぐ近くでレンの声がして、あたしの心臓の鼓動が加速する。まるで何かの警鐘みたいに。なんだろう。これ。なんだろう。触れ合った部分から全身へと熱が急速に広がっていく。なんで。どうしてこんなにも体が熱い。
ゆるゆるとレンに視線を移せば、耳まで赤くしたレンが真剣な表情であたしを見ていた。熱と甘い匂いで頭がくらくらする。だけどレンの姿はぶれることなくはっきりと視界に映っている。
ああ、なんだかもう、これじゃあ、まるで。
(――――まるでレンに、恋してるみたいだ)
あたしの指を掴む力が強くなった。レンの唇が、そっと(もしかしたら、あたしはずっと待っていたのかもしれない)その言葉を紡ぐ。
「オレ、リンのことが好きだ」
甘い芳香が胸一杯に広がった。白いいくつかの蕾、その中に1つだけ純白の花弁をいっぱいに咲かせたヨルガオがあったのを、あたしはまだ知らない。
10.08.31
残された宿題はまだまだいっぱい。
「もう入ってるじゃん……」
あたしはフローリングにうつ伏せに転がったまま呻く。視線は窓に向けられたままだったが、ノックの音を聞いた時点で誰が来たかなんて分かりきっていたので振り向くことはしない。
「ノックするのは殊勝な心構えだと思うけどね、返事する前に開けたら意味無いでしょ……」
「ていうかこの部屋蒸し暑いな。クーラーくらいつけろよ」
「聞けよ……」
相変わらずのマイペースを貫く幼馴染にうんざりとしながらも、あたしはごろりと体を反転させた。レンはお盆を持ったままあたしを見下ろしていて、ばちりと目が合うとふいと視線を逸らされた。
「なにぃー? なんの用?」
「スイカ。たくさんもらったからおすそ分けに来たんだよ。そしたらおばさんからリンの部屋についでに持って行くようお願いされたから、持って来てやったの」
「相変わらずうちのママは人使い……いや、レン使いが荒いなあ」
「ホントにな……で、スイカ食う?」
「食べる!」
あたしは元気に返事をして勢いよく体を起こした。我ながら現金な態度だとは思ったが、食欲には勝てない。レンは苦笑してあたしの前に腰を下ろした。
お盆の上にはスイカが2つ、のせられている。あたしの分と、レンの分だ。あたしは片方を手に取って早速口にする。暑さで脳みそまでとろけそうだった体に、スイカのひんやりとしたみずみずしい甘さが染み渡る。美味しいーとあたしは声をあげてもう一口齧る。
ふと視線を上げるとレンはスイカに手を付けずにあたしを眺めていた。ひどく真面目な色をした青い双眸とぱちりと視線が交わった瞬間、心臓が小さく跳ねた。
……え。
なんだろう。
これ。
あたしは驚いて自分の体を見下ろす。しかし、心臓はそれきりまたいつも通り穏やかに鼓動を打ち始め、あたしはわけが分からないままじっと自分の胸の辺りを見つめた。
「……リン、どうした?」
「あ、ううん! 何でもない。それよりレンは食べないの? それレンの分だよ」
「や、オレはいいよ。うちにもいっぱいあるからさ」
「ふーん……じゃあ、これも食べていい?」
こくりとレンが頷く。やったあ、とあたしは歓声をあげた。ありがとうレン、とあたしは笑ったが、レンは驚いたように目を瞠ったかと思うと、またふいっと視線を逸らしてしまった。
あたしは首を傾げる。何だか少し、いつもと様子が違う。どうしたの、とあたしが口を開きかけたところで、レンの視線がベランダに止まっているのに気付いた。つられてあたしもベランダを見る。鮮やかな白い蕾が闇の中に浮かび上がっているのがここから見えた。
「なに、あれ?」
「ああ、あれ? あれはねーヨルガオです」
「ヨルガオ? 育ててんの?」
「そうだよ。見る?」
あたしは食べかけのスイカを置いて立ち上がり、ベランダのドアを開けた。そこには小学生の時にもらったプランターが置いてあり、今はそこで蔦をからませたヨルガオがいくつか蕾をつけている。
「まだ咲いてないんだけどね。ほら、蕾の色が白色なんだよ。綺麗でしょ」
プランターの前にしゃがんでレンを振り返る。レンはあたしの背中越しにヨルガオを覗き込んで、へえ、と呟いた。
「ホントだ。初めて見た……ってか、なんでいきなりヨルガオ?」
「夏休みの自由研究だよ。ヨルガオ観察日記」
そう答えると、レンはしばし唖然とした表情であたしを見つめ、そして突然笑い出した。
「えっ、なに? あたしなにか変なこと言った?」
「だってお前……っ、中学生にもなってそれはねーだろ! そもそもそれって自由研究なのか?」
「研究だよっ。ちゃんと毎日日記もつけてるし……! あーもーっ、笑うなばか!」
しかしレンはお腹を抱えて笑い続けている。人が真剣にやっているというのに、そんなに笑わなくてもいいじゃないか! スイカを持ってきてくれたレンへの感謝の気持ちもすっかり消え失せて、あたしはぷいっと背中を向けた。
「いやいや、まあリンが真面目に宿題やってるだけでも良しとしよう」
「何よ偉そうに。今頃フォローしても遅い。そもそもフォローになってない」
「だっていつもは新学期直前に泣きながら宿題こなしてるじゃん。あのリンが7月の時点で課題を始めてるなんて凄い進歩だろ」
偉い偉い、とレンは母親みたいにあたしの頭をわしゃわしゃと撫でた。するとまた、心臓がひとつ大きく鼓動を打つ。
何だか変だ。さっきのレンも変だったけど、今日のあたしも体の調子が少しおかしい。
そしてまた、心臓の鼓動が治まるのを待ってからあたしは唇を尖らせて「だって」と呟く。
「中学生最後の夏休みだし、いっぱい遊びたいんだもん。だから今のうちにやっておくの」
夏休みが終われば本格的に受験勉強に入る。レンはあたしより頭が良いから、高校は別々かもしれない。だから、レンとこうして一緒に過ごせるのもこの夏が最後かもしれなかった。
ほんの少し、沈黙が落ちた。虫の鳴き声が遠くから聞こえた。
「……そっか」
「うん」
「他には宿題、何が残ってんの?」
「えっと……あとは数学の問題集とー、英語の和訳と、あと……」
レンがあたしの隣にしゃがんで、ヨルガオを見つめた。その横顔を見て、あたしの胸が、またどきどきと高鳴る。
なんでだろう。あたしの心臓は一体どうしたんだろう。
あたしは答えを探すようにヨルガオに手を伸ばし、そっと蕾に触れた。柔らかい蕾の輪郭をそっと辿る。その時、嗅いだことの無い甘い匂いがあたしの鼻孔をふわりとくすぐった。
なんだろう、この香り。
不思議に思いながらあたしは蕾から手を離そうとして、
「リン」
突然レンの手が蕾に触れていたあたしの指をそっと掴んだ。
どきん! 心臓がひときわ大きく鼓動を打つ。レンの手は、驚くほど熱い。
「あのさ」
すぐ近くでレンの声がして、あたしの心臓の鼓動が加速する。まるで何かの警鐘みたいに。なんだろう。これ。なんだろう。触れ合った部分から全身へと熱が急速に広がっていく。なんで。どうしてこんなにも体が熱い。
ゆるゆるとレンに視線を移せば、耳まで赤くしたレンが真剣な表情であたしを見ていた。熱と甘い匂いで頭がくらくらする。だけどレンの姿はぶれることなくはっきりと視界に映っている。
ああ、なんだかもう、これじゃあ、まるで。
(――――まるでレンに、恋してるみたいだ)
あたしの指を掴む力が強くなった。レンの唇が、そっと(もしかしたら、あたしはずっと待っていたのかもしれない)その言葉を紡ぐ。
「オレ、リンのことが好きだ」
甘い芳香が胸一杯に広がった。白いいくつかの蕾、その中に1つだけ純白の花弁をいっぱいに咲かせたヨルガオがあったのを、あたしはまだ知らない。
10.08.31
残された宿題はまだまだいっぱい。
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