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このPVのレンくんにやられたのだけど、うp主さんがピアプロでリンちゃんの設定を載せていてそれがあまりにも滾る内容だったから色々ああしてこうしてこうなった。
若干うp主さんとの解説とは変えてあります。リンとカイトの会話する場面とか。
ちなみに
ミク→ミクレチア
カイト→カイザレ
で2人は兄妹です。カンタレラは液状ではなく粉状です。個人的には液状が燃えますが!
そしてレンリンです。
つまり……言いたいことは分かるな?
血と土の匂いが混ざった風を肺いっぱいに吸い込む。あちこちで怒声と剣が交わる音が響き、甲高い馬の嘶きが鼓膜を叩く。
風を唸らせ襲いかかってきた剣を弾き飛ばし、兜と鎧の隙間に剣を突きたてた。がくりと兵士の体が崩れ落ち、血飛沫が顔を濡らした。構わずに馬を走らせる。体は燃えるように熱かったが、思考は冴え渡り、驚くほどにはっきりとしている。五感の全てが研ぎ澄まされ、そしてその全てが猛り狂い、吠えていた。
あの男はどこだ、と。
黄色の薔薇が咲き乱れる美しい庭園。その中心に置かれた小さなテーブルには、ティーカップが2つと赤い薔薇が一つ置かれていた。レンは椅子に座り、取り囲むように花を咲かせた薔薇を眺めていたが、こちらにやって来る人物に気付くと笑みを浮かべた。
「リン! 帰っていたのか。今日帰るなら教えてくれればよかったのに。怪我は無いか?」
リンと呼ばれた少女は、テーブルの前で足を止めると卓上のティーカップを見遣った。
「ああ、心配無い。敵の軍は最後まで抵抗していたんだがな、降伏を命じたら呆気なく受け入れたよ。こちらの軍はほとんど無傷だ。そんなことよりも、ミク様が来られていたのだろう?」
「ついさっき帰ったよ。カイザレ様が迎えに来たから」
カイザレという名前を聞いた瞬間、リンは眉を顰め卓上の赤薔薇を苦々しげに見遣った。
「またカイザレか。あの男、レンとミクレチア様が婚約していると知っているのか? まるで二人を引き裂こうとするような真似ばかりする」
「大事な妹なんだ。それをいきなり現れた男に横取りされれば良い気分はしない」
「まるで玩具を取られた子供のようだな。情けない」
「そう言うなよ。俺もリンに婚約者が現れれば、きっと同じことをすると思うよ」
レンの言葉に、リンの肩が小さく震えた。しかしその動揺はほんの一瞬で、リンは、すぐにそれを隠すように、ふんと鼻を鳴らして険しい表情を浮かべた。
レンはティーカップに注がれた紅茶を優雅な仕草で口にすると、リンを見上げ微笑んだ。
「そういうリンは婚約しないのか? 求婚を受けたと噂を聞いたが」
「ああ、あの男か。断わったよ。剣もろくに振れない男だった、話にならない」
にべもない口調でリンは言い捨て、腕を組んだ。レンは苦笑を浮かべる。
「リンより逞しい男か。それならリンが結婚するのはまだまだ先になりそうだなあ」
レンがおどけた口調でそう言うと、それまで石のように固かった表情をようやく崩してリンも微笑んだ。
「私の結婚の心配などしている場合か。お前はミクレチア様との結婚だけを考えていれば良い。何ならあのカイザレとかいう男が、二度とレンの前に現れないように、私が痛めつけてやろうか?」
「やめろよリン、冗談に聞こえないぞ」
「私は冗談など言わない」
「そういえばそうだったな」
二人分の笑い声が薔薇園に響いた。
静かで、穏やかな午後だった。小鳥がさえずり、風が優しくレンの髪を揺らした。金色が柔らかく光を反射し、その眩しさにリンは目を細めた。青い瞳は水晶のように澄みきっていて、陶器のように白く滑らかな肌に思わず触れたくなる。長年レンと共に過ごしてきたが、その美貌に飽きる日が来ることは無い。時々、彼と自分が双子であることを疑いそうになる。薔薇に囲まれた彼の姿はまるで1枚の美しい絵画のようで、リンは知らず知らずのうちに感嘆の息を漏らしていた。
「なあ、リン訊きたいことがあるんだが…………リン? おい、リン」
気が付くとレンが不思議そうな顔をして覗き込んでいた。思わず見とれていたリンは、はっと我に返った。安全な場所とはいえ、ぼんやりとしていた自分を心の中で叱咤する。
「どうした? ぼーっとするなんて珍しいな。疲れているんじゃないのか?」
「いや、気にするな。それより、何か訊きたいことがあるんじゃないのか」
「あ、ああ……うん。そう、だな」
レンは視線を逸らす。自分から言いだしておきながら言葉を濁す彼を見て、珍しいとリンは思った。
確かにレンは優しく穏やかな性格をしているが、自分の考えと意見はしっかりと持っている。こんな風にうやむやな態度を取ることは今まで無かった。
レンがこんなに言い辛そうにする理由を考えて、リンが真っ先に思いついたのは彼の婚約者のことだった。
(色恋の相談なら、私の出る幕は無いな)
腕を組んだまま、リンはじっとレンの言葉を待った。
レンは視線を逸らしたままなおも言い淀んでいたが、しばらくしてからようやくぽつりと口を開いた。
「……さっき、こっちの軍はほとんど無傷だったとリンは言った」
「ああ」
「でも、今までもずっとそうだったわけじゃないだろう?」
「そうだな。むしろ今回のようなことの方が珍しい」
レンの言おうとしていることが分からずにリンは訝しげな表情を浮かべた。レンは静かに顔をあげた。眼差しが、まっすぐにリンを捉えた。
「……君は今まで、何人殺した?」
かちゃ、とリンが腰に差した剣が音を立てた。
彼女の反応を伺うように、レンはじっとリンを見つめている。
沈黙が続いた。
レンの言葉にリンは一瞬表情を硬くしたが、しかしすぐにその動揺を表情から消し去った。そして口を開いた。
「さあな。覚えていない。興味が無いから数えようと思ったこともない」
突き放すようにそう吐き捨て、ふいと背中を向ける。
部屋に戻る、と短く告げて歩きだした背中に「リン」とレンは声をあげた。踏み出しかけたリンの足が、ぴたりと止まる。
レンは悲しげに顔を歪ませると、ぎゅっと拳を握った。
「こんなことを今更言っても、言い訳にしか聞こえないかもしれない。……だけど俺は、リンが戦場で代わりに血を浴びている時に、自分だけがこの安全な箱庭にいることが許せない。君が鎧を着て戦っている時に、俺は着飾った女たちと紅茶を飲んでいる――――そんなの、俺には」
「やめろレン」
鋭い声でリンはレンの言葉を遮った。射抜くような眼差しが、まっすぐにレンに注がれていた。
「それ以上は聞きたくない」
「だけど……!」
「私は一度もレンを恨んだことなど無い。自分の境遇を不幸に思ったことなど無い。煌びやかなドレスを身に纏い、血を知らない穏やかな日々を送ることを羨ましいとは思わない」
一歩一歩、踏みしめるようにレンに歩み寄りながらリンは言った。強い光が宿った瞳はぶれることなくレンだけを見ている。
「これは私自信が望んで選んだ道だ。レンを守り、レンを幸せにすることこそが私の願いだ」
レンの目の前で歩みを止めたリンは、悲しげに微笑んだ。
「だからそんなことを言わないでくれ」
レンの瞳が小さく揺れた。俯き、唇を噛み、ゆるゆると小さく頷いた。
それを見てリンは微笑みを深くした。俯いたままのレンの手を取り、その場に跪く。
それからその手の甲に、恭しくそっと口づけを落とした。
「……レン」
リンはレンを見上げた。陽光を受けて、レンの髪がきらきらと光った。レンの全てを、美しいと思う。心から、愛しく、守りたいと思った。
(そのためならば、私はこの命など惜しくはない)
「君は私が守る。必ずだ」
レンを囲う世界がいつまでも穏やかで幸せであれば、自分も穏やかで幸せな気持ちでいられるのだと、そしてこの自分の願いもレンに伝わっているはずだと、リンは信じて疑わなかった。
見つめ合い、そしてレンは美しく笑った。
「……ありがとう。――――姉さん」
レンの言葉にくしゃりと何かが握りつぶされたような痛みが胸を走る。しかしリンはそれをおくびにも出さない。
決めたのだ。この痛みに気付かぬふりをすることを。この感情を殺してしまうことを。
リンはそっとレンの頬に手を伸ばした。
「レン」
(だから、君につく、最初で最後の嘘を許して欲しい)
「幸せになりなさい」
怒号も、剣の音も、馬の嘶きも既に止んでいた。戦いは終わった。勝敗は、誰の目にも明らかだった。
静けさに満ちた戦場の真ん中に、引きずられるように連れられてきた男が、乱暴に地面に叩きつけられる。深い海のように鮮やかな青い髪をした男は、息を切らせながら目の前に立つ騎士を見上げた。
騎士は無言のまま確かめるように男を見下ろしていた。そしてようやく、銀色に鈍く光る兜をそっと外した。金の髪がさらりと零れ、氷のような色をした青い瞳が現れる。男は驚きに目を見開いた。
「あなたは……」
「久しぶりだ、カイザレ公。流石に私の顔は覚えているようだな」
そう言って少女――――リンは、嘲笑を浮かべた。
「君が、指揮していたのか」
「そうだ。どうやらこの戦いは我々が勝利を収め、貴方の敗北で終わりそうだ」
「何故、君がここにいる」
「何故だと?」
リンはぴくりと眉を上げ、流れるような動きで剣を抜いた。そしてその刃を、カイザレの首筋にひたりとあてる。
「……それは貴様が一番よく分かっているはずだろう」
カイザレは呆然としたように、自分に剣を向けた人物を見上げていた。
視線が交わり、カイザレの瞳がはっと何かを悟ったように揺れた。そして、ゆっくりと唇を歪め静かに肩を震わせたかと思うと、突然哄笑を爆発させた。
「はははははは! そうか! やはりそうだったのか! 貴方も私と同じだったのだな!」
背中を仰け反らせ高らかに笑い続けるカイザレを見て、死の恐怖でとうとう気が狂ったか、と二人を囲んでいた兵士たちはざわめく。しかしリンは蔑むような瞳で、狂ったように笑い続けるカイザレを見下ろしていた。
「君たち二人を初めて見た時から、薄々感じていたのだよ! はは、こんなところにもいたとはなあ。報われぬ感情に身を焦がす愚か者が! 苦しかったか? 悲しかったか? 死にたかったか?」
「……黙れ」
「弟の敵を討ったつもりだろうが、それは違う。君はきっと妬ましいんだ。同じ境遇でありながら、結ばれ合った私たちが憎くてたまらないんだ! そうだろう? 同じ異常者である私たちが、愛し合っているのが許せないんだ! だから私を殺して――――」
「黙れと言っている!」
リンの怒声にカイザレはぴたりと喋るのを止めた。そしてじっと、自分に剣を突き付ける少女を見つめた。彼女の瞳から普段の冷静さは失われ、代わりに今は黒く激しい感情が燃え上がり、ぎらぎらと鈍い光を放っていた。
「彼らは幸せになろうとしていた! それを己の欲望のままに貴様が壊したのだ! 貴様に何が分かる、大切な者の幸せを、願えぬお前に」
「幸せ? 何を言っている! あれは彼女が望んだのだ! 彼女は私を求めていた!」
「ふざけるな! その貴様の馬鹿げた妄想にレンは巻き込まれ、そして殺されたのだ!」
リンは吠えるように言葉を浴びせた。
カイザレの首筋から一筋、鮮やかな赤い血が流れた。そのまま首を跳ねようとする腕に歯止めをかけるように、リンは歯を食いしばる。唇の端から、つうと血が流れた。剣が、震える。
これは怒りだ。決して、カイザレの言葉に心が乱されているからではない。
誰かのことを妬んだり、羨んだりするはずがない。
レンが幸せであれば私も幸せだったのだ。
――――本当に?
不意に頭に響いた声に、心臓が跳ねる。
素早く周りに目を走らせるが、兵士たちは一様に重く口を閉ざしている。
誰だ。この声は、誰だ。
――――本当にお前はそう思っていたのか?
うるさい。
――――お前は自分に言い聞かせていただけじゃないのか?
こんな男に理解されて堪るものか。
――――綺麗事を並べ、自分に酔っていたんじゃないのか?
この男と私は違う。
――――本当は、誰よりもレンの傍にいたかったんじゃないのか?
…………うるさい。
――――お前は動揺している。最も憎んでいたカイザレに、全てを見抜かれていたことに。だけどそれを認めたくないのだ。
――――本当は妬ましいんだ。
――――カイザレの言った通り、自分が望んだ結末を手に入れた、カイザレとミクレチアが妬ましくて堪らないのだ。
――――だからお前はカイザレを殺したいのだ!
「うるさい! 違う!」
リンは悲痛な声で叫び、剣を持つ腕を押さえて無理矢理震えを止める。突然叫び声をあげたリンに何事かと駆け寄ろうとした兵士に「近寄るな」と一喝する。
俯いたリンの口から、血の滴が地面にぽたりと落ちた。その赤を見た瞬間、薔薇園で見た、一輪の赤い薔薇を思い出した。
レンの笑顔を見たのは、あの日が最後だった。
翌晩にレンは殺された。
あの穏やかな時間は二度と戻りはしない。あの笑顔を見ることも、頬に触れることももう叶わない。何故ならこの男がレンを殺したからだ。
この男が、私から、レンを奪ったのだ。
何もかも、この男が。
リンの胸に再び復讐の炎が宿った。頭に響いていた声が遠くなる。震えがゆっくりと治まっていき、リンは深く息を吐いた。
「カイザレ」
重々しくリンは口を開く。
「確かに私はお前と同じ愚かな人間かもしれない。自分に嘘をつくことで身を守るばかりの臆病者かもしれない。だが」
再び顔をあげた時には、リンは再び感情の無い人形のような表情に戻っていた。
「例えそうだとしても、私はお前を生かしはしない。たった一人の弟を殺したお前を、許すことなど出来ない」
カイザレは何も言わない。
リンは懐からあるものを取り出し、カイザレにそれを翳してみせた。
「これが何か分かるか?」
硝子の小瓶の中で、雪のように白い粉が光っていた。カイザレは小さく息を呑む。
「見覚えがあるはずだ。なぜならこれと同じものを、お前はレンのグラスに注いだのだからな」
「……今更、死など怖くない」
「誰が貴様に飲ませると言った?」
カイザレがはっと体を震わせた。
その体がかたかたと小さく震えだすのを見て、リンはぞっとするほどに冷徹な笑みを浮かべた。
「カンタレラは、一体、どんな味がするのだろうな。私は誰かで試してみたい」
「やめろ……やめてくれ……ミクは、ミクレチアだけは!」
「何故今更、貴様の願いを聞く必要がある?」
ふっと短く嘲笑し、リンは剣を振りかざした。カイザレの瞳が、ゆっくりと絶望に染まっていく。
「私が忠誠を誓ったのはただ一人だけだ」
刃が宙を、煌めいた。
――――リン。
誰かに呼ばれたような気がして、リンははっと顔をあげた。しかし周りに誰もいないことを確認すると、薄く自嘲を浮かべる。
「気のせいか……」
薔薇園の中心に、あの小さなテーブルはもう無い。代わりに今は、そのテーブルの持ち主であった人物の名前が刻まれた墓石がある。それだけでここが、まるで知らない場所のように感じてしまうのは何故だろう。そう時は経っていないはずなのに、レンと共に過ごしたあの午後が、遠い昔のことのようだった。
ふと、彼女は今、どうしているのだろうと思った。
何度か見たことのある、長く美しい緑の髪を持った少女。あの人も私のようにあの男の墓の前に立っているのだろうか。
彼女を殺すことは確かに容易いだろう。しかしあの言葉は、カイザレを絶望の中で殺すために言ったはったりでしかない。もはやリンは、彼女に対して何の感情も抱いてはいなかった。怒りも憎しみも同情も無く、涙も出ない。レンが死んだ時も、カイザレを殺した時も、リンの瞳は乾いたままだった。
きっと枯れてしまったのだろう、とリンは思う。
今の私はきっと、枯れ井戸のように真っ暗で虚ろな穴でしかないのだ。そしてレンが死んでしまった瞬間、自分は本当にただの虚ろと化してしまったに違いない。
風が吹いた。黄色い薔薇の花弁が、雪のように宙を舞う。しかしリンはそれを美しいとは思わなかった。レンが失われた今、世界の全てが色を失い何もかもがくすんで見えた。
レンはもう、戻らない。
私が唯一、心から愛した、たった一人の男はもう二度と戻らない。
空っぽの彼女に残されたのは、その事実だけだった。
「私は、どうすれば良かったのだろう」
しかしその声に答えるものは無かった。リンは微笑んだ。その手には、小さな小瓶が握られている。
10.09.12
うそつきは泣いた。おおうそつきは笑った。しょうじきものは大笑いした。