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モジュールはこういう世界観だったらすごく良い。時系列は2nd→fのイメージ。
PVのダンスは無印と2ndがかわいい。
PVのダンスは無印と2ndがかわいい。
真っ先に目に入ったのは、闇の中に差す白い光の柱だった。それは、やはり真っ暗な頭上の空間へとまっすぐと伸びている。視線を上げていくと光の筋は細くなっていき、最後には一筋の糸となってどこかでふつりと途切れていた。その光の柱の底は、数歩離れた場所に白い円となってぽとりと落ちていた。
近付きたい。欲求が爪先に伝わり足を動かす。瞬間、その欲求と同じくらい強いシグナルが体を硬直させる。近付いてはいけない。
近付いては駄目なのかとおとなしく諦め、視線だけを注いだ。何の変化も無い光の柱に意識だけが惹き付けられる。
「こんにちは」
唐突に響いた声に思わず視線を外した。今まで気が付かなかったのが不思議な程近くに、少女が居た。微笑を浮かべた少女もまた、光の柱を見つめていた。その横顔を見上げて、ようやく自分が椅子に座っていたことに気付いた。椅子の高い背凭れに沈めていた体を起こす。それだけの動作にも、まるで椅子に一体化しかけていた体を引き剥がすような時間がかかった。水の中にいるみたいに上手く体が動かない。意思が身体に伝わるのに時間がかかるのだ。
ねぇ、と少女に声をかけた。
「あの光は何?」
「見たままよ。何と言われると私もはっきりとは答えられない。ただ私達は、呼ばれればあの場所に行く。それだけよ」
「私達って?」
「もちろん、私とあなた。それにあの子たちも」
あの子たち? 口にする前に彼女が誰のことを言っているのかが分かった。まるで黒いカーテンが取り払われたかのように、あたしの目は暗闇の中の少女たちを唐突に認識した。それとも、あたしが周りを注視していなかっただけで、初めからそこに居たのだろうか。彼女たちは光の柱を取り囲むように等間隔に置かれた白い椅子に身を預けていた。その瞼は一様に閉じられている。
「眠ってるのよ」
「いつ目を覚ますの?」
「呼ばれれば、目が覚める。そしてあの場所に立つ。あなたもこれからそうするのよ。簡単でしょ」
同じ髪の色、同じ顔をした少女たちは、同じように肘掛けに腕をのせ、同じように体を預け、同じようにじっと動かない。唯一違うのは、着ている服だった。色も形もとにかく統一感が無くてばらばらだ。傍らの少女の服も白と黒を基調にしたもので、どの少女とも違っている。
ふと、並べられた椅子の中に一つだけ白い箱が紛れていることに気付いた。あたしの視線を追って、少女は微笑む。
「来て」
コツンコツン、と黄色のハイヒールが白い床を鳴らす。まだ多少ぎこちなさの残る体を動かし、あたしも椅子から立ち上がった。
箱に近づいてみると、それは存外に大きく、高さは腰の辺りまであった。覗き込んでいいのかと視線で尋ねる。少女はまた微笑んだ。あたしは箱の淵に指をのせて、そっと箱の中を覗き込んだ。
そこには少女が眠っていた。同じ顔と金色の髪を持っている。例によって、着ている服はどの少女とも違う。セーラー服の袖から伸びた細い腕に、赤い02という数字がくっきりと刻まれている。白い肌には不釣合いで、そのちぐはぐさが毒々しくいやに目につく。それに固く冷たい無機質さを感じて、少し残酷だと思った。無意識に、自分の左腕をさする。あたしの腕にも同じ数字が刻まれているのにまるで違って見える。おそらくこの数字はあたし、あるいはあたし達ではなく、この女の子にとって重要な意味を持つものなのだ。
「この人と話したことはあるの?」
「無いわ。それどころか私も他人と話したのもこれが初めてなの。私が目覚めた時はみんな眠っているし、 きっと私が眠っている時は誰かが代わりに起きているんじゃないかしら」
「それなら何故今はあなたもあたしも起きているの?」
「変わったんじゃない?」
彼女は肩を竦めた。
「私にもよく分からないわ。そもそもそんなことは気にならない。ここで起きる全ての事象は、そういうものだから、の一言で片付くのよ。きっと私よりもこの子のほうがいろいろと知ってるだろうし、いつか会える日が来たら尋ねてみたらどう?」
あたしは再び箱の中へと視線を落とした。
「この人は特別なのかしら」
「特別というよりも違うのだと思う。出来ることだって私達と何も変わらないはずだし(会ったこともないのになぜ知っているのだ、とあたしは思った)。ただ、この子は私達になれるけど、私達はこの子にはなれないってだけ」
「羨ましい?」
「自分以外の何かになりたいと思ったことはないわ。あなたこそ、羨ましいの?」
「羨ましくはない」
たぶん、あたしにとって重要なものは他にあるのだろう。
少女はぴくりとも動かない。夢をみているのだろうか。そういえばあたしは目が覚める前、どんな夢をみていたっけ。
音が聞こえた。瞬間、あたしは弾かれたように振り向く。体の指揮権が乗っ取られてしまったような感覚だった。意識は再び、光の柱にしか向けられなくなる。光が鼓動するように震えているのは目の錯覚だろうか。そしてそれに応えるかのごとく、あたしの鼓動も大きくなった。この体にはどうやら心臓があるようだった。
「呼ばれてるわよ」
頷く。箱の淵から指を離した。
「いつかまた会う日があるかもね。それまではさよなら、ブラックスター」
あたしの目はただ、光の柱にだけ注がれている。たぶん彼女はこれからあの白い椅子に座り深い闇の底に意識を沈めるのだろう。あたし達はずっと、くるくると入れ替わり立ち代わり、この光の中に立つのだ。
厳かな足取りで進み出て、迷いなく指先を伸ばしそのまま全身を光の中へと浸した。目を閉じると、かたい地面の感覚のかわりに浮遊感が訪れる。体が引き伸ばされ、凝縮され、粒子になる、そしてまたあたしを象る。まぶしい。瞼をすけて差してくる光。闇の底はあんなにも暗くて静かな場所なのに、どうしてここは音と光で溢れているんだろう。
怖くはなかった。むしろ静かに高揚してすらいた。本能だ。あたしにはそれしかない。だから自分が選ばれ、必要とされているのもわかる。それはとても心地良い感覚を与える。必要とされている。必要とされることであたしは存在出来る!
また微かに音が聞こえた。挑むように瞼を上げると、光の渦の向こうに影が見えた。あたしと同じ金色の髪をした男の子。初めてみるけど、よく知っていた。ああ、嫌になるな。意外性の無さにお互いうんざりしそうだ。
それでもほんの少し笑っていた。これも本能だ、仕方ない。何もかもインプットされたこの世界に、意外性なんて期待しない。いつか終わるこの短い時間を、せいぜい笑って過ごしてやろうとあたしは思う。
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