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ベイベーのPVのフルを見て、これをどうにかしてレンリンに持っていこうと妄想を爆発させた結果がこれです。
すげーだろ!レン(→)(←)ミクっぽいあのPVをレン←リンに無理やり持っていこうとするオレすげーだろ!!


 ミクが泣きながら音楽室を飛び出したのは約5分前。「とっととミクを追いかけろ」と、蹴りだすようにリンがレンを音楽室から追い出したのはつい先ほど。
 放課後の音楽室には、廊下を走り去ったレンを見送ったリンと、一切話に介入せずに成行きを見守っていたルカだけが取り残されていた。
 ルカは教壇の傍らにあるグランドピアノの椅子に座り、ドラムスティックをくるくると弄びながらリンの背中を眺めた。リンは肩からギターを下げたまま、レンの姿が見えなくなった廊下をじっと見つめ続けている。
「どうするの?」
 ずっと沈黙していたルカの存在を忘れていたのか、リンは弾かれるように振り向いた。
「今日のセッションは中止? まだ1回しか合わせてないけど」
「あ、え……と、多分そうなると思います。あのっ、本当にごめんなさいルカ先生。せっかく練習のために集まってもらったのに、こんなことになっちゃって」
 ルカは黙って肩を竦めた。セッションのために教室の机を端に寄せてつくったスペースも、今は置き去りにされたベースとマイクがあるだけだった。ピアノの上に置かれたメトロノームは今だ拍を刻み続けている。
 リンは教室のドアを閉めてルカの近くまでやってくると、教壇に腰かけてギターのストラップを肩から外した。その横顔は少し疲れているように見える。
「本当に不器用よね」
 ぽつりとルカが呟いた。きょとんとして顔をあげたリンも、納得したように「ああ」と頷くと、大きな溜息をついた。
「やっぱりルカ先生もそう思いますよね。あほレンもミクちゃんもさっさとくっつけば良いのに、いつまでももだもだしてて見てられないです」
「じゃなくてリンちゃんが」
 え、とリンが声を漏らした。
「良いの? 2人の応援しちゃって。だってレン君とミクちゃんがくっついたら、リンちゃん余っちゃうじゃない。余り者は寂しいわよー」
 リンはぱちぱちと目を瞬かせ、そしてゆっくり苦笑いを浮かべた。
「……そんなこと言うならルカ先生、余り者同士仲良くしましょうよ」
「私は最初から輪の外側だもの。残念でした」
 ルカは妖艶に微笑む。そしてこう続けた。
「取られちゃうわよ」
 誰を、とは言わなかった。誰のことを言っているかなんてわかっているはずだ。その証拠に、リンはルカの言葉にぴくりと肩を震わせた。
「私は別に関係ないから良いけど。リンちゃんはそれで良いのかなーって思って」
 ルカの目から逃げるようにリンは視線を逸らした。
「……勘違いしないで下さいよ。レンはただの幼なじみです。いわゆる腐れ縁ってやつで、昔からそばにいただけで……本当に、ただそれだけです」
 ルカは何も言わない。影が落ちたリンの横顔を見下ろしている。
「……だから」
 リンは掠れた声で呟いた。
「だから、これからもそうだって、当たり前みたいに思ってたんです」
 そう言ってリンは目を伏せた。かち、かち、とメトロノームの音だけが響く。傍らのギターにそっと這わせたリンの指先は、何度も豆が出来た結果、皮が厚くなっている。爪も短く切られ何の装飾も施されていない指は、同年代の女子生徒と比べると、お世辞にも女の子らしいとは言えない。
 ルカはふと、数ヶ月前に部活の顧問を頼みに訪れた時のレンの言葉を思い出した。
――――どうしてもバンドが組みたくて、リンにギターを頼んだんです。
 リンとレンは、ルカに顧問とドラマーを頼み、ミクをボーカルとしてメンバーに引き込んで今のバンドをつくった。だからルカは、2人が今のバンドを作るのにどれだけ奮闘したかはよく知っている。ドラムの経験があるルカや昔からベースを演奏していたレンと違い、リンがギターを始めたのは半年前のことだ。そのため、放課後のセッションが終わった後も遅くまで音楽室でギターを練習していた。顧問という立場上、先に帰るわけにもいかず結局ルカもリンの練習に最後まで付き合っていた。
 もちろん練習に励んでいたのはリンだけではない。しかし「ただの幼馴染」の頼みだからという理由で、貴重な高校生活の時間をここまで費やすことが出来るだろうか。
 そう思ったルカが、リンの気持ちに気付くのにそう時間はかからなかった。
 お小遣いで買ったというギターをリンはいつも自慢げに持ち歩いていた。レンと一緒に選んだものだと話す顔は花が咲いたような笑顔だったが、今はあの時とはまるで違う沈んだ表情をしていた。
「そうやって大人ぶるの、今の子の流行なの?」
 リンはついと顔をあげてルカを見た。そしてゆっくりと、困ったように微笑んだ。
「……大切な幼なじみの恋を応援するのは、そんなに駄目ですか」
「リンちゃんくらいの年頃の子は、自分が幸せになるのに精一杯ってくらいがちょうど良いのよ。だから私は自分を真っ先に犠牲にしたがるイイ子ちゃんより、自分のためにがむしゃらな子供の方が好きなの」
 コレはあくまで私の個人的な意見だけど。
 ルカは長い足を組み、くすりと笑った。
 教師という職業でありながら、この先生は無駄に色気を発し過ぎているのではないか、とリンは思った。うるさく言うこともなければ、生徒たちと積極的に仲良くしようともしない。飄々として掴みどころがなく、教師と接しているような感じがしない。
(だけど、ルカ先生の言葉はどの大人よりも胸に響くのはどうしてだろう)
 リンは静かに唇を噛んだ。
 ミクを追いかけていったレンの背中は、ひどく遠く感じた。自分の知っているレンじゃないような気がして、寂しくて不安だった。本当は行かないでほしい。彼女を見つめるレンの顔を無理矢理こちらに向けて、自分の想いを全て伝えてしまいたかった。
 そんな衝動に駆られるたびに、耳元で臆病な自分が囁く。
 もし伝えたとして、拒絶されたらどうなる。近付いていく2人をただ見守る、惨めな女になるしかないじゃないか。
 想像するだけで体が震えた。レンを渡したくない。でも、そんな結末を迎えるくらいなら、いつまでも優しいレンの幼馴染でいたい。ただそれだけの理由で、親切な友人という仮面を張りつけて応援するようなふりをしている。胸中で渦巻く汚い感情や言葉は見ないようにして、勝手な自己陶酔に浸っている。
 結局、私だって自分のためなのだ。ルカ先生の言うような、イイ子ちゃんなんかじゃない。
 なんて、
 こんな言い訳みたいな自己嫌悪も、目の前で美しく笑う彼女は見透かしているのだろう。
 レン、と声にならない声で呟いた。今や彼のくるくる変わる表情も不器用な優しさも自分だけのものではなくなってしまった。
 私はどうすればいいのだろう。どうすればよかったのだろう。どうして、こんなことになってしまったのだろう。叶えられるなら、選択を間違うその前に時間を戻して欲しい。
 後悔だけが雨のように降り注ぎ、胸の中に蓄積されていく。レンがバンドをつくろうと言わなければ。自分がそれに賛同しなければ。ミクと出会わなければ。彼女をバンドに誘わなければ。

――――私がもっと早く、想いを伝えていれば。

「んじゃ帰ろっか、リンちゃん。教室の片づけは2人に任せましょ」
「……先生」
 俯いたままリンが低く呟く。
「んー?」
「あっち。向いててください」
 ルカはメトロノームを止めてリンを見下ろした。そして唇の端にわずかな笑みを浮かべた。
「泣くの?」
 ボン、とリンがギターの弦を弾いた。
「泣きませんよ」
 どこか挑発的なルカの言葉に、リンは笑って答える。彼女の目尻にちらりと一瞬光ったものを、ルカの目は確かに捉えたが何も言わなかった。椅子に座り直し、言われた通り大人しくリンに背を向けた。
 夕焼けに染まる音楽室には、リンがギターを爪弾く音だけが響いていた。恋に不器用なあの少年は、そろそろ少女を見つけた頃だろうか。
(全く、鈍い男ってのは面倒よね)
 ルカはそっと瞼をおろすと、静かに歌い出した。優しくて悲しい恋の歌。自分も昔はこの歌に自分の恋を重ねて酔ったりしたものだ。
 そんな思い出に浸りながらルカは歌う。旋律に隠れるようにして細い嗚咽が聞こえてきたのは、もちろん聞こえないふりだ。






10.07.16
君ってどーんかん!

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