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高校1年生。秋の終わり。

white out の続き。


 あ、一番星。
 茜色からすっかり藍色に変わってしまった空にちかりと光る星。あたしは河川敷の草の上に大の字になったまま、その宝石のような瞬きを眺めた。
 秋の終わりも近いこの寒い日に、女子高生が河川敷で大の字になるにはそれなりの理由がいる。もちろん今のあたしにもちゃんと理由があった。
 簡潔に説明すると、土手から転がり落ちて左足を挫いていた。それならば早急に痛む足を庇いながら、家に帰るなり病院に行くなりしなければならないだろう。しかし実に運が悪いことに、あたしは最近右の足首も挫いたばかりだった。つまり現在あたしは両足首を挫いているという大変不幸で奇妙な状態にいるいうわけだ。何とか歩けはするだろうが、自分の運の悪さとまぬけっぷりにほとほと呆れ果ててもう微塵も動きたくない気分だった。そういうわけでかれこれ30分ほどこの寒空の下で独り転がっている。我ながらあほっぽい。
 何だかデジャヴュだ、と思ったら、そういえばいつかもこうやって、夕暮れ時にこの河川敷で寝転がっていたことがあった。あの時は傍にミクオがいたけど、今この場所にはあたししかいない。あの時よりもせっかちな夕日は、引きずられるように地平線に呑まれていく。さっさと沈んじゃえ、とあたしはこっそり悪態をついた。無意味なのは承知の上で。
 しかしいつまでもこうしているわけにはいかないので、そろそろ真面目にどうするかを考えなくてはいけなかった。全く歩けないわけじゃないのだから、ここはもう歩いて帰るしかないだろう。あたしは覚悟を決めて上半身を起こし、1メートルほど離れた場所に転がっていた鞄を引き寄せた。すぐ隣にはスーパーのレジ袋もくしゃりと横たわっている。お母さんに頼まれて買って来た卵が、袋の底でどうなっているかはあまり考えたくない。
 その時、鞄の中の携帯電話が震えだした。そうだ、携帯があった。そこであたしはようやく携帯電話の存在を思い出す。真っ先に思いつくはずのそれに、今頃気づいた自分の間抜けさに再び呆れながらも、とりあえずのろのろと通話ボタンを押した。
「もしもし」
『あ、リン? やっと繋がったー。何で電話に出ないのよ。今何やってるの? 早く卵買って来てくれないと、オムライスが完成しないじゃない』
 この状況に追い込んだ原因の一つでもある母親の呑気な声に、あたしは脱力し深い溜息をついた。
「……卵は買ったよ」
『あら、じゃあ早く帰ってきなさいよ』
「けど」
 あたしはちらりと草の上に転がっているスーパーの袋を見た。
「多分、全部割れちゃってる」
『ええーっ、何で!』
「土手の上からあたしと一緒に転がり落ちた」
 しん、と一瞬静まり返り、そしてええっという驚愕の声が鼓膜を揺さぶった。あたしは顔を顰める。
「もー、いきなり大きな声ださないでよー」
『えっ、ちょっと……大丈夫なのっ?』
「左足挫いただけ」
『なんで電話しなかったのよ! 私じゃなくても、レンに電話して自転車で迎えに来てもらうなりすれば良かったじゃないの』
「……いいよ、もう。自分で何とかする」
『だってリン、両方の足挫いてるから歩けないでしょう。馬鹿ねえ』
「馬鹿じゃないもん。大したことないから歩いて帰れる。だからレンは呼ばなくていいよ」
『――――レンに電話しにくい?』
 不意に核心を突かれ、あたしは黙った。
『2人ともずっと喋ってないでしょう。仲直り、しないの?』
「…………」
 気付くか。気付くよね、そりゃ。
 確かにお母さんは抜けてるところもあるけど、正真正銘あたしたちの母親で、生まれてからずっと一緒にいるのだ。今のあたしたちがどんな状況であるか、気付かないはずがなかった。その原因がどんなものかは、さすがにわかりはしないだろうけど。
「わかってるなら、電話しろなんて言わないでよ」
『……リンとレンがこんなに長い間喧嘩するの、初めてね。昔だったら考えられなかったわ』
 しみじみと呟く、その呑気な口調が少し癇に障った。
 今のあたしにとって、レンに電話することはかなり勇気がいる作業だ。直接話すのが駄目なら、電話で話してみようかと毎晩のように携帯電話を手に取る。しかしレンのアドレスを開いた途端、もし電話を無視されたら、冷たい態度をとられたら。と、そんな嫌な想像ばかりが頭を巡りキーを押す指が凍ったように動かなくなってしまうのだ。たった数回キーを押すだけなのに、それが出来ない。自分の勇気の無さに苛立ちながら、いつの間にか朝を迎えてしまう。それの繰り返し。
 だというのに、何も知らない母親はこれをただの珍しい姉弟喧嘩だとでも思って眺めている。あたしは語気を荒げて言った。
「別に良いじゃん、あたしもレンも、もう昔とは違うんだから。そもそも今までがおかしかったんだよ。お互いに彼女も彼氏もつくらないままいつもべたべたしてさ、傍から見たら異常だよ。あそこの双子は少しおかしいって陰口言われてたことぐらい、あたしだって知ってるんだから」
 そこであたしは言葉を切った。お母さんに言ったってどうしようもないことも、完璧なあたしの八つ当たりだということもわかっていた。だけど、それでも怒りを覚えずにはいられなかった。こんなことを言えば、きっとお母さんはひどく傷付く――――そんなのわかってる。でも、思わず口走りそうになる。
 なんで、あたしたちを双子にしたの、と。
「それにお母さんだって嫌だったんでしょう。心配だったんでしょう。どうせ周りの人と同じように、おかしいって思ってたんでしょ。今の関係が、これくらいの距離が、丁度良いって思ってるんでしょ!」
 静かな河川敷にあたしの声が反響した。
 返事は無かった。受話器の向こうから、多分テレビの音だろう、賑やかな笑い声が聞こえてくるだけだった。温かいリビングの光景が思い出そうとするまでもなく、脳裏に浮かぶ。今朝までいたその場所が、今はひどく遠く懐かしく思えるのはどうしてだろう。
『ねえリン』
「……なに」
『実はもう、リンを探すようにレンにお願いしちゃったの』
「――――え、」
 その時ふと河川敷にかかった橋の上を歩く影に気付いた。携帯の画面を見ているのか、少し俯いた横顔。暗闇でもはっきりとわかるほどに鮮やかな金髪。
 あたしは目を見開いた。レン、と思わず呟いていた。
『あら、もしかしてレンが近くにいるの?』
「ど、して、ここに……。お母さん、もしかしてあたしがここにいるの知ってたの?」
『まさか。レンにはついさっきメールしたばっかりだし、きっとレンも偶然リンのいる河川敷を通って帰ってたんじゃないかしら。ラッキーねー。探す手間が省けたじゃない』
 本来ここは下校する時に使うルートとは大きく外れた道だ。そのうえ今日はおつかいの帰りに少し寄り道がしたくなって、普段滅多に通らない道を通って帰っていた。だから、この場所をレンが通るわけないのに。
 すると、昔からそうなのよね、という呟きが耳に届いた。
『リンがいなくなったら、真っ先に見つけるのはいつもレンで。まるで最初からリンの居場所を知ってるみたいに簡単に見つけちゃうのよ。それが本当に不思議だったわ。私だけ仲間外れみたいで寂しかったけど、でもね、すごく嬉しかったのよ。ああ、この子たちはきっと母親にもわからないくらい深い絆があるんだろうな、って』
 お母さんはそこで一拍間をおいて、そしてぽつりと言った。
『やっぱりそれは変わらないのね』
 あたしはぎゅっと携帯電話を強く握った。
 違うよお母さん。
 確かに昔からレンはあたしを見つけるのが得意だった。かくれんぼの時も、どんなに上手く隠れてもレンは絶対にあたしを見つけたし、迷子になった時も、お母さんと喧嘩して家を飛び出した時もあたしを見つけるのは必ずレンだった。だけど今は違う。レンは、あたしが上手に隠れればもう見つけられないし、全力で逃げればきっと捕まえられない。あたしが望めば、きっとそうなる。
 だから今ここでレンの名前を呼ばなければ、レンはあたしに気付かず、そしてあたしはここに独りで取り残されるだろう。だけど、もしかしたらそれが一番良いのかもしれない。
 独りで立って歩く。そうしなきゃいけない時が来たのかもしれない。
 これ以上近付くことはせず、それぞれに恋人を作り、結婚をして、いつかは子供をつくって幸せな家庭を築く。そんな、あるかもしれない未来をむざむざ手放すようなことは、するべきじゃないかもしれない。
 いつ変わるともしれない感情に身を任せてしまうのは、世間からすればひどく滑稽に映るだろう。きっと他の人は簡単に選べるような選択を、あたしは迷っているのだ。
 わかってる。
 わかってるよ。
『リン』
「…………」
『レンと仲直りして、ちゃんと一緒に帰ってきなさい。一人で帰ってきたら夕飯抜きだからね』
 お母さんは、もしかしたら、全部気付いているのかもしれなかった。もしそうなら、全てを知った上での答えが、今の電話なのかもしれない。
 お母さん、とあたしは呼びかけた。
「ごめんなさい、お母さん……ごめんなさい」
『リンが謝ることなんて、何も無いのよ』
 だから早く、帰ってきなさい。
 優しくそう言い残して、お母さんは電話を切った。あたしはじっと携帯電話を見下ろした。ツー、ツー、と無機質な音をたてているそれに、もう一度、ごめんなさいと呟く。あたし、本当に、どこまで馬鹿なんだろう。いつだって誰かに背を押されるまで、そこから動くことが出来ない。
 ミクオと保健室で話したあの日以来、あたしはずっと自分の気持ちと向き合ってきた。だけど、やっぱりまだ決められなかった。
 選ばなくちゃ。私たちはまだ大人じゃないけど、もう子供じゃない。私たちはもう、あの頃のままではいられないのだと認めなくちゃ。
 顔を上げるとすでにレンは私に気付かないまま橋を渡り終えて、どんどん歩いて行ってしまっていた。
 レンの姿が小さくなる。離れて行く。
 あたしは拳を握りしめた。叫び出しそうになるのを堪える。夕闇の中に溶けていくシルエットを、瞬きも忘れて見つめる。あたしは。あたしは。

 ――――あたしは、

「レン!」

 叫ぶように名前を呼んだ。
 ぴたりとレンの足が止まり、きょろきょろと周りを見渡す。その背中に向かって、力の限りに声を張り上げる。
「レン! レンッ! こっちだってば気付けこの馬鹿あっ」
 レンが振り返る。驚きに目を瞠ったレンがあたしを視界に捉える。リン、と唇が動いた。
 レンがあたしの名前を呼んでくれたのが、随分久しぶりのことのように感じた。以前は当たり前だったことが、今はこんなにも嬉しくて幸せで、あたしは泣きそうになる。
 レンはすぐに引き返し、土手を駆け降りてきた。はあ、はあ、と肩で息をし呼吸を整えてから、馬鹿、と怒鳴った。
「こんな暗いのに一人で何やってんだよ! 危ないだろ!」
 その一言で、今までのわだかまりが溶けていくようだった。あたしを心配して、レンが怒っている。それが、怒られているにも関わらず、どうしようもなく嬉しい。
「だって、た、卵、が」
「卵?」
 零れそうになる涙を堪えながら、あたしは途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「お母さんに、卵、買って」
「うん」
「でも、土手から、落っこちて、足挫いちゃって」
「は?」
「どうしようと思って、それで……」
 呆れた顔をしたレンは一瞬言葉を失い、そしてその直後に盛大に噴き出した。
「土手から落っこちるってお前……」
「わ、笑わないでよ! 本当に痛かったんだからっ」
「だってそんな……どうやったら土手から転がり落ちるんだよ。そんなの小学生だってしねーぞ」
 レンは肩を震わせて笑っている。あたしはうるさい、と小さく返した。湧きあがってくる羞恥心に顔が熱くなったが、不思議と怒りは感じなかった。それよりも、レンが以前のように笑ってくれているという嬉しさが心を満たしていた。じわりと涙が視界を濡らし、あたしは急いで俯いた。
「さっき母さんからメールきてた。リンと連絡とれないし帰りが遅いからって心配してたぞ」
 あたしはごしごしと涙を拭いながらごめんなさいと謝った。オレに謝ってどうするんだよ、とレンは苦笑した。
「帰ろう」
 ほら、とレンがしゃがんであたしに背中を向けた。一瞬、レンの行動の意味がわからずにあたしは目を丸くする。
「歩けないだろ。家までおぶってやるから」
「……あ、あたし重いよ」
「でもそれじゃあ歩くの大変だろ」
「それにレンだって、その、家までおんぶなんて無理でしょ」
 レンはむっとして眉間にしわを寄せた。
「いつの話だよ。オレをひょろひょろのもやし男だと思うなよ」
「違うの?」
「全然違う。いいからほら、早く乗れ」
 あたしは鞄とスーパーの袋を持つと、おずおずとレンの背中にしがみついた。しかしあたしの心配を余所に、レンは驚くほど軽々と立ち上がった。
「重いなら、無理しなくて良いから」
「いや、ていうかむしろ軽過ぎ。リン、ちゃんと食ってんの?」
「食べてるよ。ていうかレンは三食あたしと同じもの食べてるじゃん」
 土手の上をゆっくりと歩く。レンにおんぶしてもらうなんて、何年ぶりだろう。随分と逞しくなったレンの背中に寂しさを覚えると同時に、心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「月」
 レンが独り言のように言った。その言葉につられてあたしも空を見上げる。丸い銀色の月が、澄んだ夜の空に煌々と光っていた。その月明かりで、あたしとレンの影がくっきりと浮かび上がっていた。込み上げてくる背徳感に、思わず目を逸らしたくなる。
「……あたし、月より星の方が好き」
「なんで?」
「何となく」
 思い出したのは、随分昔にレンと一緒にした夜の冒険のことだった。手を取り合って上った坂道。夏の大三角形。お母さんの腕の温もり。あの思い出はいつだって、あたしの中で宝石みたいな光を放っている。思い出す度に違う色に光るその記憶は、あたしの大切な宝物だった。
 あの日みたいに月の出ていない夜が良い。何もかも隠してくれるけど、頭上には星が輝いている、そんな夜が良い。
 しばらくはお互いに無言だった。あたしはレンの足音に耳を澄ませながら、心地よい揺れに身を任せていた。空気は冷たく、透明だった。街の明かりが遠くでゆらゆらと揺れていて、穏やかで優しい光はそこに住む人たちの幸せの数だけ灯っているように見えた。
 あたしはその光の群れにそっと手を伸ばす。きらきらとした光はあたしの指の先でちらちらと瞬いたが、決して届くことは無かった。
「ずっと考えてた」
 唐突に、レンが言った。
「昔のこととか、今のこととか。それから、将来のこととか」
 ずっと、考えてた。
 噛みしめるように、ゆっくりとレンは言った。
 うん、とあたしは静かに相槌を打った。
「あたしも、ずっと考えてた」
 昔のこと、今のこと、将来のこと。ミクオのこと、お母さんのこと、友達のこと。そして、レンのこと。
「色んな事を考えて、色んな人を傷つけて、でも、それでも……やっぱりあたし、まだ怖くて、決められなくて」
 言葉は尻すぼみになっていき、あたしは目を伏せた。自分の臆病さが歯痒かった。それでも少しでも多くの気持ちを伝えようとあたしは言葉を探す。だけど、それよりも先にレンが口を開いた。
「なあリン、約束、覚えてる?」
「え?」
「中学生の頃、リンが母さんと喧嘩して家飛び出してさ、公園のブランコに座ってるのをオレが見つけたことあっただろ。あの時の、約束」
 突然の話題にあたしは驚きながらも記憶を手繰り寄せる。
 あの日、あたしはお母さんと喧嘩をして家を飛び出していた。よく覚えている。
 なぜなら、あの日が初めて、レンとの別れを意識した日だったから。
 確か進路の話をしていたんだと思う。既にあたしもレンも同じ高校を進路として選んでいたが、あの日突然お母さんが本当にその高校で良いの、と訊いてきたのだ。レンと同じ高校ならどこでも良い、とあたしが答えると、お母さんは顔を強張らせて、そしてこう言った。いつまでもレンと一緒にいることなんて出来ないのよ、と。
 あたしはお母さんの言葉に言いようの無い怒りを覚えて、そしてひどく動揺した。一方的に怒りをぶつけて、そして家を飛び出した。幼いあたしは信じ続けていた自分の世界が崩れ始める音に、ひどく怯えていたんだと思う。だからレンに言ったのだ。ずっと一緒にいてくれるよね、と。レンなら何の躊躇いも無しに頷いてくれると思っていたから。
 だけどレンは頷かなかった。
 あの時は、その理由が分からなかったけど、今ならわかる気がする。
 もしかしたら。
 もしかしたら、レンはあたしよりもずっと先に、世界が壊れ始める音を聞いていたのかもしれない。
「思い出した?」
「うん……でも、レンは約束、しなかったよ」
 そんなつもりじゃなかったのに、あたしの口調はレンを責めるような響きを持っていて、少し慌てた。
 だけどレンは弁解することも無く、うん、と言った。そして短くこう続けた。
「だから今、約束する」
 レンの言葉の意味。
 それを理解するのに数秒を要した。じわじわと氷が溶けていくように、レンの言葉が染み渡っていく。それと同時に押し寄せる、胸を締め付けるような感情があたしの涙腺を刺激する。月の光を受けて光を纏った金髪が、朧げに滲んだ。
 夢の中みたいだ、と思った。
 夢なんじゃないか、と思った。
「ずっと、一緒に」
 喉の奥から絞り出した声は、掠れて震えていた。
「ずっと一緒に、いてくれるの」
「うん」
「何があっても?」
「うん」
「……一生、約束守ってくれるの」
「守るよ」
 レンの声は静かで、だけど明瞭に夜の空気に響いた。
「リンがどんな選択をしても、オレはずっとこの約束を守るよ」
 あたしはもう何も言えなかった。多分ここで何を言っても、自分の言葉は陳腐に響いてしまう。今の気持ちを、この瞬間を、無理矢理言葉に当て嵌めるくらいなら、一生忘れないよう胸に焼きつけておきたい。そう思った。
 忘れないでいよう。冬の匂いが混じる夜の冷たい空気を、いつの間にか大きくなったレンの背中を、優しくて温かい温度を、この約束を。絶対に忘れないでいよう。
 いつかまた、迷う日が来ても大丈夫なように。
 あたしはすんと鼻を鳴らした。ここからじゃ顔は見えないけど、レンが笑ったような気がした。
「リン。遠回りして、帰ろっか」
 返事の代わりに、まわした腕に力を込める。レンがまた、小さく笑う。







10.08.23
届いて。

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